ただ敗北

人伝ての話で叩きのめされる日が来るとは思わなかった。誰かが歌ったように、丸い刃は尚痛い。
「あの人大丈夫?」
大丈夫だから二本の足で今日も立っている。と思いたい。
人付き合いは昔から苦手だ。新しい友達はできず、旧友は去り、上辺の作り笑いさえ難しい。
それでもなけなしの強がりを振り絞って新しい場所に入ってみたり、アルバイトを始めてみたり、自分なりに頑張ったつもりになっていた。同年代の人達と同じような上手い立ち回り方は出来なくても、自分なりの精一杯だった。
それを何年も顔を見ていないような人間に否定された。優しさじゃない、僕が知っている時代のあの人は、そういう類のものを少なくとも僕に対しては持ち合わせていなかった。
百歩譲って純粋な心配や優しさだとしても僕にとっては敗北以外の何物でもない。折角忘れていたのに。忘れていてほしかったのに。
友達を作る。或いはできる。学校へ行く。普通の事だ。
いつからかそれが出来なくなった僕は特別な人間ではなくただの屑だ。分かってる。
それでも立て直そうとして、小銭も稼げるようになって、単位も盛り返してきて、楽しい事を別の場所に見つけようと。
愚痴ってばかりだったけど頑張った。「大丈夫?」じゃない。大丈夫にしようと。なろうとした。なれた気がした。
叩き潰された。何もかもを。逃げていたけれど踏み留まって、新しい明日を見つけたかった。
結局は、余裕のある時の自分もそうだったが、下を見て安心したいだけだ。頭を踏みつけて誰かが上へ行く。
僕もまた誰かを踏みつけ、日陰からの脱却を図った。その日々で忘れていた。
いつかの自分のような気持ちを持った人間、自分の亡霊を踏みつけて、消し去ろうと。
火種が消え、葉が散っても汚いフィルターは消えはしない。初めは白かったフィルターが含んだ茶色が忘れようとした昨日であり、誰かに訪れる明日なのか。
兎に角僕は迂闊だった。これ以上は強くはなれない。誰かに認められたいとも思わなくなってきた。
誰かを傷付けず、誰かに傷付けられず生きる事は不可能だ。
ただ踏みつけた昨日と踏みつけられた明日の間で今宵も情けなく涙を流すのだ。