追憶

昔の同級生のお姉さんがバイト先にお客として来た。まさか僕を覚えているとは思わなかった。
分かっていても気付かないフリをしたり、されたりする事が多い。
関わりの無いまま時間が経つと、前と同じように接する事が難しくなったりする。
それでも話しかけてくれた事が何だか嬉しかった。
別に子供の頃仲良かったわけでもないし、先輩だからあまり軽々しい言葉は掛けられなかったけれども、多分僕は嬉しかったのだと思う。

風の音、虫の声、夕暮れの匂い、忘れていた風景の中に彼女達の声は確かに在った。
ここ数年空っぽの生活を送っていたせいで、過去というものは自分が都合よく作ったフィクションのような気がしていたけれど、10年前にも確かに僕は生きていたのだと、誰かの記憶の片隅にあるのだと、分かった。
忘れ去りたい記憶がまだ消えてくれない事を鑑みると、俺はまだ自分だけの世界に閉じ籠れるほど割りきれてはいないのだろう。